そもそも、どんな仕組みですか?
「オポチュニティゾーン条項」(英:Opportunity Zone)は、2017年12月にトランプ政権によって成立した税制改革法に組み込まれている税制優遇制度です。
いわゆる優遇制度と異なるのは、制度によって集められた資金を財源にして貧困・低所得地域へと再投資が行われる点にあります。
オポチュニティゾーンとは何ですか?
各州が指定するオポチュニティゾーン(以下OZと記載)とは、米国内の貧困・低所得地域において指定されるものであり、OZに認定されるための条件としては、以下のどちらかを満たしていることです。
OZ条件
- 1.貧困率が20%以上であること
- 2.世帯収入の中央値が周辺地域の80%未満であること
米国全体では現在、下図に示された約8,700地域がOZに認定されています。
図1(北米・中央エリア)
図2(北米・アラスカエリア)
画像出典:Opportunity Zones: The Map Comes Into Focus
OZ法を利用して、税制優遇を得るにはどうすれば良いですか?
税制上の優遇を受けるためには、2021年までに含み益のある資産(株式、投資信託、不動産)を売却し、そのキャピタルゲインを「適格オポチュニティファンド(英:Qualified Opportunity Fund)」(以下QOFと記載)に180日以内に再投資しなければ、本プログラムの優遇措置を受けることはできません。
上記条件をクリアした場合、以下の税制優遇措置を受けることができます。
OZによる税制優遇措置
- 1.キャピタルゲインにかかる税金の支払いを2026年末まで繰り延べ可能
- 2.QOFへの投資を10年以上継続した場合、QOF売却時のキャピタルゲインは非課税
- 3.既存のキャピタルゲインの支払い時の課税対象額はQOFへの投資期間が
5年以上7年未満の場合10%、7年以上は15%減税
(1)2019年末までに再投資した場合→課税対象額の15%を減税
(2)2020/2021年に再投資した場合→課税対象額の10%を減税
2019年内に再投資すると税控除が最大に
前述の優遇制度の1によるキャピタルゲインに対する課税の繰り延べは2026年末まで有効ですが、3にある15%の減税を受けるためには7年以上のQOFへの投資が必要で、スケジュールを逆算すると2019年末までにQOFへの投資を完了させないと15%の減税に必要な7年という時間を2026年末までにとることができません。したがって、本プログラムを利用して税控除を最大にしたい場合、2019年内に再投資をする必要があります。
また、QOFは、集めた資金を一定期間内にオポチュニティゾーン内に投資する必要があり(不動産に問わない)、そのため、投資家が年内にQOFに投資するというモチベーションと同様、QOFが年内に投資先を確保するというモチベーションに繋がっています。
制度利用による減税シュミレーション
ケース1(既存投資に対してのキャピタルゲイン税の減税例)
通常の税制度下では、23.8%の税率(高所得納税者の20%の税率に3.8%の追加の純投資所得税)がかけられるため、例えば売却した資産のキャピタルゲインが100万ドルあったとすると、キャピタルゲイン税の総額は23万8千ドルになります。
QOFへの7年間の投資によって得られる税制優遇措置下(15%控除)の場合であれば、課税対象額が(100万ドル-15万ドル=)85万ドルと減額になり、その金額に対して23.8%の税率がかけられるため、キャピタルゲイン税の総額は20万2,300ドルとなり、3万ドル以上の節税が可能になります。2020年以降にQOFに投資をする場合は、上記の15%控除が10%控除になります。
ケース2(ファンドから上がったキャピタルゲイン税の減税例)
QOFに100万ドル再投資した投資家がいたとします。QOFがOpportunity Zone内で複数のアパートを購入し、投資家はその投資に対し10年間投資を継続するとする。それらに付加価値が付き、300万ドルで投資を売却した場合:通常の税制度下かつ一般のファンド投資に対してのキャピタルゲインの場合、課税総額は差益(300万-100万=200万ドル) に対して23.8%のキャピタルゲイン税が課されるため46万7千ドルになるが、10年間 QOFに投資をしていると、10年後の課税総額は0ドルとなりキャピタルゲイン税も0ドルとなります。この仕組みにより、投資家は10年以上QOFに資金を置いておくインセンティブが発生するため、QOFはOZに対し長期的かつ安定的な投資を実行することができるとされています。
まとめ
2019年12月31日までにQOFに再投資することが繰延キャピタルゲインで最高の税控除を得る方法です。これは、QOFへの早期の投資を促進する狙いがあるとされていますが、2020年以降も効果は薄れるものの課税対象額の10%の減税を受けられることから、今後もこの制度の利用は見逃せません。
前編では、制度の概要についてご紹介しましたが、後編では、本制度がアメリカにおいて生まれることになった背景をご紹介したいと思います。